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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)935号 判決 1953年8月07日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡村大の上告趣意第一点について

昭和二〇年勅令五四二号は、わが国の無条件降伏に伴う連合国の占領管理に基いて制定されたものであって、連合国最高司令官は降伏条項を実施するためには、日本国憲法にかかわりなく、法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり、日本の官庁職員及び日本国民に対し指令を発してこれを遵守せしめることができるものであること、されば同勅令は日本国憲法にかかわりなく、同憲法施行後も同憲法外において法的効力を有し、従って同勅令に基いて発せられた所論勅令九号もまた無効といえないことは当裁判所大法廷判決の趣旨に照して明らかである(昭和二四年(れ)第六八五号、同二八年四月八日大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点及び弁護人小沢茂の上告趣意第一点についての判断参照)。また同勅令が所論昭和二二年法律七二号一条所定の命令に該当せず従って同条の規定は前記勅令の効力に影響を及ぼさないものであることは当裁判所大法定判例(昭和二二年(れ)第二七九号、同二三年六月二三日大法廷判決参照)の趣旨に徴し明らかである。また所論覚書はすべての売淫契約と売淫協定を無効ならしめるよう命ずるものであるから、その趣旨に反して無効な契約をした者を適当な条件の下に処罰するのは勿論連合国最高司令官の要求に係る事項を実施する所以であるから所論勅令九号は最高司令官の要求を実施するため特に必要があって制定されたものであると認められるのであって前記勅令五四二号の要件を充たしたものといわなければならない。

以上の次第で所論勅令九号の無効を主張する論旨は採用するを得ない。

同第二点について

しかし本件勅令九号は昭和二七年四月一一日法律八一号ポツタム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律により一応一八〇日の存続効を認め、同年五月七日法律一三七号ポツタム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律一条により法律としての効力を有するものとされたのである。そして同勅令の基本たる昭和二〇年勅令五四二号は平和条約発効とともに廃止せられたけれども本件勅令九号は平和発効後においても前記法律により法律として存続しているのであって失効していないのである。従って論旨もまた理由なきものである。

よって刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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